2004年9月29日水曜日

新聞社説/小泉改造内閣

■毎日新聞/社説「小泉人事 守勢目立つイエスマン政権」
・攻めが身上の小泉純一郎首相は守りに入っているのではないか。自民党総裁の任期切れまでの2年。自民党役員と内閣改造人事は、小泉政治の総仕上げに挑む人事のはずだったが、首相の視線は内向きで、改革断行に打って出る意気込みが伝わらない。
・象徴的なのが武部勤氏を起用した党幹事長人事。武部氏は、首相が「人事の踏み絵」としてきた郵政民営化実現に積極的で、昨秋の衆院選で「小泉改革」を党のマニフェストにまとめた実績も評価された。確かに首相には忠実であるかもしれないが、党内の反対を抑えて改革関連法案を成立させるには、実績も知名度も不足している。
・首相の本音は、安倍晋三氏の続投。しかし、安倍氏が固辞してシナリオが狂った。反主流派の古賀誠氏ら党内実力者を起用し、党内融和を重視する道を選べば、「改革抵抗勢力との妥協」と国民に受け止められる。さりとて、改革積極派には適任者がなかなか見つからない。そんな手詰まりの中での武部氏起用。
・党との対決をあおることで政権浮揚を図ってきた小泉首相だが、「軽量執行部」で果たして乗り切れるか。しかも、今回の人事が、首相が頼りにしてきた内閣支持率のアップにつながらないとすれば、首相の立場はいっそう苦しくなる。
・重要閣僚人事も、外相の川口順子氏が代わったほかは大きな変化はない。新外相の町村信孝氏は森派で首相の身内ともいえる存在だ。これまで、女性や民間人、若手の起用でサプライズ効果を狙ってきた首相だが、自民党全体の人材不足も手伝ってか、話題作りもままならない。
・参院選敗北のけじめをつけるため党幹事長を辞任したはずの安倍氏は幹事長代理になった。自民党の若手の中には安倍氏を「ポスト小泉」に担ぐ動きが既に出ている。首相は国民的人気がある安倍氏が党や内閣の要職を外れ、首相と距離を置き始めるのを恐れたのではないか。
・国民の関心を引き寄せられない一方で、「首相の保身のための人事」という印象さえある。内向きに郵政民営化の踏み絵をつきつけた結果が、「軽量イエスマン」政権だった。「改革実現内閣」というには何とも頼りなげなスタートではないか。
「自己保身のための軽量イエスマン政権」とは、ずいぶんと辛辣だなぁ…。
■武部勤(山崎派)起用は、山崎拓が操縦しやすいようにと見てよいのでは。落戦中の山拓を「幹事長」にするにはこの手法しかないんだよね。安倍晋三の時もそうだけど、幹事長には実力者をおかずに、自分に忠実であることを条件にする。で、実際は、森派(森喜朗や中川秀直ら)を中心に運営していくってパターン。
■朝日新聞/社説「小泉人事――分からぬ幹事長選び」
・あっと驚く自民党幹事長人事ではあった。小泉首相が選んだのは武部勤氏だった。党務や行政面で目立った実績もなければ、若さも国民的人気もあるわけではない。昨秋の安倍晋三氏の抜擢とは正反対の驚きだ。
・武部氏の起用は、郵政民営化を支持してきたことが理由とされている。だが、民営化の法案をつくり、来年の通常国会で成立させるには、反対論が根強い自民党を強力に引っぱっていく政治力が欠かせまい。
・武部氏と言えば、農水相時代に牛海綿状脳症(BSE)をめぐる責任問題で官僚に振り回され、野党から不信任決議案を突きつけられた。さらに、自民党内からも批判を浴びた。そんな武部氏に党をまとめる力があるとは思えない。
・安倍氏が幹事長代理になったのも驚きというほかない。参院選敗北の責任を取って辞任したなら、役職に就かないのが筋だろう。なぜ降格に甘んじて執行部に残ったのか分からない。小泉改革の仕上げをめざす党の布陣としては、なんとも不思議な印象だ。
・首相の方針や政策に逆らわない人々を政権の中枢に集め、政策を強力に進めようということだろう。首相の居心地はよかろうし、閣内に波風は立つまい。問題は、そうした顔ぶれで自民党内の抵抗を抑え込み、目に見える改革を実現できるかということだ。改革をしようとすれば、党内でそれを担える人は限られ、政権への逆風は強まる。今の首相に、それをはねのけるだけの人気があるとは思えないが。

■日経新聞/社説「鮮明になった郵政民営化シフト」
・小泉純一郎首相が内閣改造・自民党3役人事を行い、郵政改革シフトを鮮明にした。首相は人事を通じて政権の最大課題である郵政民営化法案を来年の通常国会に提出して成立させるための布陣を固めた。その目的を優先するために、民間人起用や女性閣僚増員などこれまでの首相の人事手法にはこだわらず、政権の命運がかかった郵政民営化や三位一体改革の実現を優先した政策重視の実務型人事を貫いたといえよう。
・小泉人事にサプライズはつきものだが、武部勤氏の幹事長起用は意表をつく人事だった。しかし、武部氏が首相の盟友である山崎拓氏の側近で、郵政民営化を盛り込んだ自民党のマニフェスト(政権公約)作りに中心的役割を果たしたことを考えるとうなずける。与謝野馨政調会長は首相と同じ大蔵族で、自民党では数少ない郵政民営化論者である。
・こうした自民党3役の顔ぶれに加えて、閣内では首相の信任が厚い竹中平蔵経済財政担当相が郵政民営化担当相を兼務する体制になった。首相の公約である2007年4月からの郵政民営化を実現するには、来年の通常国会に法案を提出して成立させなければならない。首相は挙党態勢より郵政民営化シフトを優先する姿勢を明確に示した。
・人事を通じて首相が何をめざそうとしているのかを明確にすることは大事なことである。派閥人事は良くないが、人気目当ての人事も困る。今回の内閣改造が政策重視の人事だったと評価されるためには、首相と閣僚が仕事を通じて目に見える成果を上げなければならない。
 無難にまとめるのが日経の特徴。
他紙が社説2つのうち一つを内閣改造にあてているが、読売はすべてを内閣改造をあてている。で、提灯持ちの読売は、政策課題を並列する「応援歌」となっているので、分量が多いわりには、残しておきたいと思った部分は少ない…
■読売新聞/社説「『小泉政治』をどう仕上げるのか」
・郵政民営化シフト。首相自身が「郵政民営化実現内閣」としたように、構造改革の本丸と位置づける郵政民営化を、自らの主導で推進する体制作りを最優先させた人事。
・武部氏は、昨年の衆院選を前に、郵政民営化などを柱とする自民党の政権公約作りを担当した。与謝野氏は財政通で、かねて郵政民営化を主張している。久間総務会長は、郵政民営化に反対論が強い旧橋本派所属だが、首相とのパイプが太い青木参院議員会長と近く、必ずしも「抵抗勢力」ではない。首相の党三役人事の主眼は、郵政民営化の正念場を前に、忠実な側近型の実務者を起用したところにある。
・首相が掲げる政策は、与党の協力で法案が成立して初めて実行に移される。だからこそ、歴代首相は与党との政策調整に意を用い、時に妥協を図った。しかし、小泉首相は、道路公団民営化など党内の抵抗が強い場合も、高い支持率を背景に、持論を通してきた。党主導では、既得権益擁護のための抵抗などで政策がゆがめられる恐れがあるという考えもあるのだろう。
・小泉首相は「憲法改正」も「消費税率の引き上げ」も自らの任期中には実施しないとしている。憲法改正は、二十一世紀の日本が目指すべき国家像を築く作業だ。消費税率引き上げは、社会保障の財源としては無論、財政再建の観点からも避けて通れない。首相の残り任期は、その道筋を付ける重要な時期だ。
・連立のパートナーである公明党は、憲法改正、消費税率引き上げのいずれにも消極的だ。小泉政権の基本政策が公明党との調整によって、内容が希薄化する可能性がある。
 「歴代首相は与党との政策調整に意を用い、時に妥協を図った。しかし、小泉首相は持論を通してきた」ってさ。なかなか言える言葉じゃないよ。
■産経新聞/社説「小泉改造内閣 基軸ぶれない外交に期待」
・評価できるのは、日本の平和と安全を担う外交・安全保障の陣容を強化したこと。また郵政民営化などの小泉構造改革を仕上げる政府・与党の態勢も一応整った。
・大きな焦点であった外相には町村信孝元文相が起用され、「国益を増進したい」と語った。北朝鮮との国交正常化問題や北方領土問題を担当する外相は内政における手腕も必要になっている。国際的にも存在感を示せる外相が求められており、基軸のぶれない骨太な外交を望みたい。
・防衛庁長官には党内有数の政策通の大野功統氏が起用された。戦後防衛政策の見直しに着手した石破茂前長官の路線を貫徹してほしい。米軍再編問題でも町村外相とともに国益を実現する好機ととらえるべきだ。
・党三役には知名度や清新さに物足りなさは残るが、派閥均衡を無視した小派閥や無派閥からの異例の起用によって首相は「小泉流」を貫いた。
・三役に望みたいのは、自民党立党の原点に立ちかえることだ。結党時の党是である「現行憲法の自主的改正」をいかに実現するかが党勢回復のカギであろう。自民党は来年十一月の結党五十周年に合わせて憲法改正案をまとめるが、改正案作りを急ぐべきだ。自民党がこうした問題を片付け、真の保守勢力としての信頼を取り戻さなければ、衰退の一途をたどるのは明白だ。
 あまりにも産経っぽさが出ててちょっと笑った。「真の保守勢力としての信頼を取り戻さなければ、衰退の一途をたどるのは明白」なんだそうです…いやはや。


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