2002年1月1日火曜日

狂牛病

■2001年11月22日
 精密検査の結果北海道で、2頭目の狂牛病(牛海綿状脳症)の牛が見つかった。
 国が「安全宣言」を出してから一か月余りが過ぎ、騒ぎが鎮静化しつつある中での、新たな判明である。
 台所の不安が広がり、関係者の痛手は大きいだろう。
 「一体、役所は何をやっているのか?」テレビでは焼肉屋やスーパーの店員、通行人などのインタビューが流れされている。このような発言を垂れ流すだけのメディアは不安を煽るだけで最低最悪である。
 このような発言は「安全宣言」の意味を勘違いしているにすぎない。
 国は「安全な牛が市場に出回る体制ができた」と言って安全宣言をしたのである。だから、今回の検査は全頭検査したからこそ、危険を未然に防いだのである。現在実施されている日本の食肉牛の検査基準は欧州より厳しい。二頭目の感染牛が確認されたことは、検査体制が機能していることを示している。二頭目が「いるかどうか」ではなく、「いつ出るか」が問題だったのだ。したがって、今回の発見で牛肉に対して過剰な反応をすべきではない。
 さらには、異常プリオンが集まる危険部位は脳、せき髄、目、回腸など特定の臓器だ。仮に感染した牛を食べても、特定の危険部位を食べなければ、感染する恐れは限りなくゼロに近いのだ。それらの臓器はすべて焼却されているし、現在の検査がきちんと実施される限り、問題のある牛の肉などが出回ることはない。
 政府は少なくとも次の4つのことはしないといけないだろう。
?検査のおかげで見つけることができたこと、今後の検査体制が万全であることを宣言し、実行する。
ようは安全だってことのPR。今回の牛も足がふらつくなどの外見的な症状はなかった。いかに検査が重要か再認識させられる。検査は2段階に分かれ、1次の簡易検査は全国の食肉処理場に隣接する検査所が担っている。ミス防止のためにも無理のない態勢と人員配置が必要だ。異常プリオンが蓄積しやすいせき髄が肉に付着する背骨の中央を切る現行の解体法や、作業現場でのせき髄吸入機の導入など技術的な工夫が必要だ。
?被害に対する救済措置。
需要低迷に苦しむ畜産農家、小売店、焼き肉店などの被害はいっそう拡大する。肉骨粉の焼却は大幅に遅れ、山積みになっている。全頭検査前の在庫肉も処理が難しい。
?感染源の究明。
一頭目の感染源もいまだ判明していない。このことが消費者を不安にさせている。感染の拡大防止のためにも、国は感染源の解明を急がねばならない。
?行政が変わること、責任の追求。
そもそも、感染源を突き止めることがなぜ困難なのか?汚染源と見られる欧州からの輸入肉骨粉が原因なのか、日本でできた肉骨粉による感染なのかを突き止める必要がある。日本で見つかった2頭ともホルスタインで同じ平成8年に生まれている。当時は乳牛のタンパク源としてコストの安い肉骨粉を与えていた。この年に英国で狂牛病と人間の新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病との関係が指摘され、農林水産省が英国からの肉骨粉輸入を禁止し、肉骨粉を牛の飼料に使わないよう行政指導を始めている。英国から輸入された肉骨粉が感染源として疑われているが、関係者は一頭目も二頭目も肉骨粉を飼料に使っていないという。当時の輸入記録がずさんだったせいで、感染ルートの解明を妨げている。
安全性に疑いのある牛肉が出現したとき、流通から生産者までさかのぼって調べる「トレーサビリティー(追跡可能)システム」が、わが国にないのだ。EUから「日本も狂牛病に汚染されている疑いがある」との警告を受けながら、「日本は心配無い」と農水省が無視した結果である。いかに根拠のない、無責任なものだったのかを表している。
 農水省は先月末、やっと牛の両耳に番号を印刷したプラスチック製の札をつけ、データをコンピューターで管理する「総背番号制」を導入することを決めた。今年度中に全登録をすませる方針だが、遅すぎる。
 農水省は欧州並みに、店頭から牛の生産地まで簡単に追跡できる新たな食肉管理の制度を導入する方針だ。狂牛病はもちろん、食中毒などの場合でも、出荷ルートをすぐに特定できるという。
 今後は食肉だけでなく、野菜など他の食物まで広げていく必要がある。 縦割りを排し、生産から消費まで一貫して責任を持つ、「食」の危機管理のシステムを構築することも急務だ。
 他にもたくさん変える部分がある。今回のように食の安全を守れなかったのは、農水省の"業界"寄りの姿勢と農水族議員の圧力があったからだ。
 さらに、食肉処理場の入り口までは農水省、その後は厚生労働省という「縦割り行政」も、対応の遅れの要因となった。
 今後、3頭、4頭と感染牛の発見が続く事態も考えられる。
 その度に、消費者の間には、無策のまま日本に狂牛病の上陸を許した畜産・食肉行政の怠慢と不作為に対する強い不信が渦巻くことになる。 役所は行政の失敗を認めて、責任の所在を明らかにする必要がある。
 「日本は安全」と言い切り、欧州からの忠告を拒絶した農水事務次官が、その責任を棚上げにし、狂牛病対策の事務方を仕切っていること自体、行政不信を増幅させている。
 厚労相、農水相共同で学者や消費者代表らによる私的諮問機関「BSE(牛海綿状脳症)問題に関する調査検討委員会」を設置した。
 過去の失敗や今後の対策を考えるためであるはずが、11月19日の初会合開いたでは、狂牛病について問題提起をした研究者に、役所から圧力まがいの電話があったことなども報告された。 このような姿勢そのものが不信の根源であろう。行政が変わること、そして徹底した情報開示をすること、このことこそ一番必要だ。
≪おまけ≫
 狂牛病問題は、「食」ということを考えるきっかけを与えてくれた、そう思いたい。草食である牛に牛の肉骨粉を食べさせる自然の摂理に反した飼育が、今の狂牛病を生んだ。自然の摂理に反した、遺伝子組替え、クローンなどバイオテクノロジーも我々のリスクを増大させている。害が見つかっていないから食べてもいいのではなく、害があるのか、ないのかわからないからこそ食べてはいけない、そういう気がする。我々は効率至上主義の農畜産業のあり方の再考を迫られているのではないだろうか?


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