2004年9月11日土曜日

社説比較・プロ野球スト回避

選手会・経営者側…双方の歩み寄りでストは回避された。まぁ、選手会側はあくまでも「延期」であることを強調している。戦略的には正しい。ストもせずに、譲歩を引き出した。このことは評価に値するだろう。さて、社説の面白いとこを…何よりも、朝日新聞が興味深い。読売の記者が書けないことをこれ幸いとばかりに、批判をおこなっている…


■朝日新聞/社説「スト延期――延長戦で議論を尽くせ」
 巨人を抱える読売新聞は10日、「超高額所得者たちの労働組合」という見出しの社説を載せた。プロ野球選手会は「労組とはいっても、一般の労組とはだいぶ違う」としてこう続ける。

 「まず“組合員”の収入が格段に高い。選手会の調査では、今季、選手の平均年俸は3804万円だ。推定5億円を最高に1億円以上の選手は七十四人いる」

 だが、資金力にものをいわせて有力選手を集め、そのような事態に拍車をかけたのはほかならぬ巨人ではないか。

 選手たちは今回、賃上げを要求しているわけではない。むしろ、痛みを伴う改革を提案している。年俸の高い選手は減額制限がある制度を変えて、大幅な年俸減も受け入れる。チームの年俸総額に上限を設ける。経営難の球団を助け、何とか共存の道を探ろうとしているのだ。

 巨人が獲得を狙う大学生に現金を渡していた事件では、ドラフト制の不備が浮き彫りになった。

 勢力均衡のために、下位球団から指名する制度を導入したらどうか。今回、選手会のこうした主張が一部取り入れられて、プロ野球構造改革協議会が設けられることにもなった。
 やっぱ読売に「超高額所得者たちの労働組合」なんて言われると引っかかるよね。一場靖弘のことまで蒸し返してきた。


■毎日新聞/社説「選手会スト回避 『されど野球』の出発点に」
 ストを背景に粘り強く交渉を続けた古田会長はじめ選手会の姿勢を評価したい。また、これまで選手会を「労組」と認定せず、交渉の席に着くことすら拒んできた野球組織側が、真摯に選手会の声に耳を傾けたことも、今回のスト回避に大きな力となった。

 テロ事件が象徴するように、問答無用の武力行使が横行する今の世の中だけに、スポーツの世界とはいえ、話し合いで事態を改善できるという一例を示したことが何よりも喜ばしい。

 それにしても、なぜもっと早い段階から、こうした話し合いができなかったのだろう。

 潮目となったのは、巨人の渡辺恒雄前オーナーの「たかが選手」発言ではなかったか。

 選手の声に耳を貸さない「傲慢な経営者」のイメージが、プロ野球にさほど関心のなかった人の間にまで広がった。経営の論理ばかりが優先する球界再編の動きにも警戒の目が強まり、選手会には何よりの追い風となって「スト支持」の輪が大きく広がった。

 皮肉な言い方になるが、球団経営者側が選手会と真剣に話し合うきっかけを作ったのは渡辺前オーナーの功績でもある。
 たしかにね。ナベツネがいなかったら、選手会への支持も広まらなかったし、経営側が立ち止まることもなかっただろう。


 どの社説もスト回避に一定の評価を与えている。根来コミッショナーに注文をつけているのが産経だ。ようするに、「出てこいや!」ってこと…

■産経新聞/社説「プロ野球スト コミッショナーの出番だ」
 しかし問題自体はほとんど進展していない。ここまでこじれさせた責任の多くがファンや選手の意向を無視したまま、近鉄−オリックスの合併容認に動いてきた経営者側にあることは言うまでもない。一部オーナーがさらに二球団の合併や一リーグ化を画策したことも選手の不信感に拍車をかけた。

 経営者側はスト突入予定日の二日前になって選手会との交渉に応じたが、二球団の合併という基本事項を決めた後とあっては、歩みよりを期待するのは難しい。一方、選手側もスト権を盾に、権利を主張するだけで球界全体の改革案を示していない。ここにも混迷の一因はある。

 だがこのさい、強い疑問を感じざるをえないのは、根来泰周コミッショナーの顔が全く見えないことだ。

 野球協約によれば、コミッショナーは「日本のプロ野球組織を代表し、管理統制する」ことになっている。具体的には紛争や協約違反が起きたときに指示をしたり、裁決を下す権限も与えられている。過去にも「黒い霧事件」や「江川問題」などで、内容的にはさまざまな批判があったものの、コミッショナーの指導力により一応の解決に導いている。

 だが、今年二月に就任した根来氏は今回の一連の騒ぎについて「もう一組の合併ができたら自分の意見を示す」としているだけで、ストライキについては、選手の意見を聞くことすらしていない。明らかに経営者側に遠慮しているとしか思えない。



■中日新聞(東京新聞)社説「スト回避 愛される野球のために」
 経営者側を動かしたのは、ストライキの圧力以上に、二リーグ制存続を支持する多くの野球ファンの力であることを選手会も忘れるべきではないだろう。

 スト回避の報道に接したファンの中には、選手会を支持しながら「やっぱり、試合が見られるのは何よりだ」と本音を漏らした人が多い。

 「対等な協議」がこうして端緒に就いた事実は重い。週明けにも続く精力的な交渉の行方に期待する。話し合いは成果を生むということを双方が学んだはずである。地道に議論を積み上げる柔軟な交渉の継続が双方に望まれる。

 その意味で、「プロ野球構造改革協議会」(仮称)の設置が決まったことを高く評価したい。

 双方が対等に囲める常設のテーブルさえあれば、今度の合併問題もここまでこじれずに済んだはずである。一連の騒動が浮き彫りにした高額年俸による球団経営の圧迫やドラフト制のゆがみ、巨人戦、ひいてはテレビ放映権料への依存体質など緊急の課題は山積みだ。

 ファンの意見も積極的に取り入れながら、双方がそれぞれの目線から素朴な疑問やアイデアを出し合って、地域との結びつきを強めつつ、プロ野球全体の構造改革を進める拠点に育てたい。
 まぁ、中日新聞は「経営者側」になるわけで、選手会支持・経営者批判するようなことはできない。こういった内容になるのは当然か。


■読売新聞は後出し。次の日に書いた…

■9月12日付・読売社説[プロ野球スト]「安心して週末のゲームを見たい」
それにしても、球団統合といった問題は、本質的に、経営判断に委ねられるべき事柄である。通常の労使交渉では、主として雇用や賃金問題が争われるが、今回は違う。

 赤字で球団を維持できないから、やむを得ず身売りする。近鉄のそうした経営判断をくみ、他球団は雇用対策として選手全員の救済を目指し、支配下選手枠を七十人から八十人に拡大することを申し合わせた。

 だから、雇用が最初から団交対象とならなかったのは当たり前だ。

 賃上げも要求されていない。平均年俸が3804万円、1億円以上の選手が七十四人いる世界では、これも当然だ。

 先日のオーナー会議の後、オリックスの宮内義彦オーナーは「労働組合として非常に不思議なストだ。(選手会は)何を要求するのか」と苦言を呈した。「全選手の雇用を全チームで維持することを最初に決めた」のに、選手会が統合そのものに反対していることを、強く批判したものだ。

 選手会は、年俸総額の大きい球団から「ぜいたく税」をとる制度の導入を提唱したりしている。だが、これも経営判断の次元に属する問題だ。

 そのことをもって、球団の経営事項まで労使双方で協議することが当然だと、ファンや国民一般を“扇動”するマスコミも少なくない。今後の協議を意図的に混乱へ導こうとするかのような、極めて無責任な言説である。

 “扇動”するマスコミ…これは朝日社説への不満だろうか。もともと選手会という「労働組合」は特殊なものであって、「球団の経営事項まで労使双方で協議すること」もあって不思議ではない。


■スト突入なら損害賠償どうなる「目的の正当性」焦点(夕刊フジ2004/09/10)
 プロ野球選手会のスト決行のタイムリミットが迫っている。ストに突入した場合、「違法スト」を指摘するオーナー側が損害賠償を請求する可能性もある。逆に選手会は東京高裁と同地裁から、「団体交渉権」のお墨付きを得ており、オーナー側の主張を突っぱねる。過去に例のない「合併」をめぐるストだけに、専門家も首をひねる問題。軍配はどっち?

 「理論的には賠償請求も可能」とみるのは、民事問題に詳しい田中喜代重弁護士だ。

 田中弁護士によれば、ストが適法かどうかは、(1)選手会は労組か(2)やり方は妥当か(3)目的は正当か−が問題となる。

 裁判所の「団体交渉権あり」という判断からすれば、選手会は労組となる。やり方についても、田中弁護士は「まあ、妥当だろう」と話す。問題は「目的の正当性」に絞られる。

 「2球団の合併が、ひいては組合員に影響すると言っても、ベアや労働時間短縮を求めるわけではなく、いまひとつストレートではない。(合併しても)規定枠外の選手を吸収するという話も出ているようだし、正当かどうか。ストは強い行為で、それだけの理由は必要。理論的には賠償は可能ではないか」

 ただし、解釈の仕方では、「オーナー側が影響はないといっても、現実問題としてあぶれる選手はいるわけで、あぶれれば買いたたかれる→労働条件に直結する、とも考えられる」とも。「前例がないので、難しい」と苦笑する。

 別の専門家も「極端な話だが、東京三菱とUFJの合併について、労組がストを果たして打てるだろうか」と首をかしげる。
 球界の衰退は雇用問題に直結する。それが他の産業とは違う点だ。


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