2004年7月25日日曜日

少子化対策

東京新聞社説/少子化の原点を突け
 若者たちに結婚を促すのは、まず経済力です。しかし新卒の正規採用は伸び悩み若者の失業率は高いままです。政府の少子化対策は的を射ているのでしょうか。

 団塊の世代が孫の顔を見ようという時期に、一・二九ショックが日本中を駆け巡りました。一人の女性が一生に産む赤ちゃんの数が昨年一・三人を割ったからです。

 このショックはさきごろの参議院選挙では、年金問題の中で取り上げられました。年金の保険料を負担するはずの若い世代の人口が増えないと年金制度が破綻するので大変だ、というわけです。年金のために生まれてこいと言われては、赤ちゃんも大迷惑でしょう。

■年々上昇する初婚年齢

 生まれる赤ちゃんが減っているのには、たくさんの原因があります。有効な対策を打たないで、騒いでばかりいても始まりません。

 表面的には適齢期の若者たちの結婚年齢が遅くなっているからです。平均初婚年齢は年々上昇していて、平成十四年度のデータだと男性が二九・一歳、女性が二七・四歳になっています。

 平成十二年の国勢調査によれば、三十歳代前半の未婚率は男性で40%、女性で30%をそれぞれ上回り、さらに上昇中とみられています。

 では、なぜこのように晩婚化が起こるのでしょうか。結婚するか、しないかは個人のライフスタイル、家庭の環境など、さまざまな要因がからんできます。しかし若者たちが、ごく自然に結婚できるような社会環境を整えるのが大人たちの役目であり、これを支援するのが政策です。

 結婚が遅れる理由について、さまざまなアンケートの中で女性の多くは「適当な相手に巡り合えないから」と答えています。

 適当な相手とは人柄が合う、合わないという性格的な要素を別にすれば、次は経済力という答えが多いのです。共働きを前提にしても健全な家庭をつくるに足る収入がなければ適当な相手ではないようです。これが本音とみるべきでしょう。

 男性も経済力については敏感に意識していて、ある程度の収入に達するまで、ある程度の貯金ができるまでは、結婚に踏み切りません。

 そこでカベになるのが近年の企業やお役所のリストラによる若者の就職難です。十五歳から二十四歳の失業率は10%を超えています。

 正規に就職できずアルバイト(フリーター)として職場を転々としていると、実務経験の積み重ね(キャリアアップ)や技術の蓄積(スキルアップ)ができません。期限付きの非正規雇用では将来への展望も立たず、経済力もつきません。

■若者の正規採用増やせ

 日本の企業は従来、学校を卒業した若者を採用し、企業内で仕事に必要な技術をはじめ団体行動のルールなど社会人としての常識を教えてきた伝統があります。

 経営者からみれば企業の明日を担う人材の育成ですが、働く若者たちにとっては、人間形成につながる訓練を職場で経験したわけです。

 こうした人材が国際競争力の強い先端製品を次々とつくりあげ、日本の高度成長の原動力になりました。分相応の所得を得た若者たちはごく自然に結婚を考えたのです。

 それが昨今は人件費の削減が最優先され、職場にはアルバイトやパートの労働者が増えています。企業自身の将来はもちろん、日本の将来を考えれば、若者の正規採用を増やすことが企業の使命でもあります。このところ業績を回復した企業には、とくに期待したいところです。

 企業が採用しやすい能力を若者に付けてもらうことも必要です。その訓練の一つとして在学中に企業へ行き仕事を体験する就業体験(インターンシップ)があります。

 就業体験の受け入れについて企業は、基本的には歓迎していますが、指導者の配置や働き場所の特設など「手間がかかる」ため、受け入れ人数をかなり制限しています。

 企業には、申し込みがあれば「原則OK」ぐらいまで努力してほしいものです。それなりの手間をかけても企業にピタリの人材を選べれば企業にも若者にも社会にも大きな成果だと思います。

 ドイツでは従業員の7%に相当する訓練生の受け入れを義務付ける法律ができそうです。受け入れない企業から課徴金を取り、7%より多く受け入れた企業に奨励金を出す、企業には厳しい制度です。さすがに企業側から反対も出ていますが、多少修正しても実現の見込みがあるようです。

■就業体験通じて適職を

 企業ができるだけ多くの若者を採用できる条件をつくるために努力する姿がドイツ社会には見えます。

 就業体験を通じて適材が適所に安定的な職を得れば、適齢期に結婚し出産する自然の姿が戻るはずです。少子化対策には、育児支援などで幅広い政策が期待されますが、一番大事な出発点がここにあることを忘れてはなりません。




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