▼米兵ジェンキンス軍曹が朝鮮半島の三八度線を越えて北朝鮮へ“脱走”したのは一九六五(昭和四十)年一月だという。米国では黒人運動指導者マルコムXが暗殺され、英国ではビートルズが女王から勲章を授けられた、そんな年だった。
▼当時二十四歳の若者はなぜ前線を離脱したのか。ベトナム戦線へ引っ張られることを嫌ったともいわれるが、理由はよくわからない。はっきりしているのは彼は北に拉致されたのではなく、自分の自由意思で“敵前逃亡”したのだった。
▼「亡命」を辞書で引くと「民族・宗教・思想・政治的意見の相違などから、自国において迫害を受け、または迫害を受ける危険があるために、外国に逃れること」(大辞林)とある。彼は別に「自国で迫害」を受けたわけでもないが、自国に背を向けて反米宣伝にせっせと尽力した。
▼いうならば自ら国を捨てたのだが、思えば戦後日本人にも自国に背を向ける生き方、考え方をしたものが少なくない。国家=悪と見、愛国心は軍国主義の復活につながるという反国家、反体制の観念を学校は教え、ジャーナリズムもそう吹きこんできた。
▼しかし“地球市民”などというきれいごとはレトリック(修辞)の世界でしか成立しない。パスポートなしには外国を旅行できないように、人は国家を離れては存在しえないのである。ジェンキンス元軍曹の“蕩児(とうじ)の帰宅”はそれを証明しているだろう。
▼病気の治療目的で彼は十八日に来日するそうだが、小泉首相の一時間もかけた説得でもノーだったものが、わずか一週間でイエスとなったのはなぞである。妻の優しい詩心が夫の氷のイデオロギーを解かしたのか。いや、空港でのあの強烈なブチュ(くちづけ)の効果かもしれない。
■「思えば戦後日本人にも自国に背を向ける生き方、考え方をしたものが少なくない」ってあたりが笑える。まさしく柏村的発想だな。
■「パスポートなしには外国を旅行できないように、人は国家を離れては存在しえないのである。」EU統合を産経はどのように見ているのか。非常に興味深い。
■ジェンキンス氏を助けようと日本人は考えているようだが、これはちょっとおかしいと思う。
■「ぶちゅー」とやった曽我キスは、非常に衝撃的だったらしい。テレビなどでは「感動的」とか「情熱的」といった表現だが、ネットにおけるコメントは、「気持ち悪い」「グロ画像見せるな」など否定的なものが散見される。おそらく後者が日本人の本音の部分だろう。
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