ところで、菅直人前代表の辞任劇をめぐっては、当コラムに反省がある。菅が民主党の両院議員懇談会で辞任を表明したのは5月10日で、その2日前の8日付当コラムは、
<菅は辞めたほうがいい>
と書いた。辞任のすすめである。党内の不信が強まり、もはや菅のもとでは参院選は戦えない、というのが主な理由だった。いま振り返っても、その状況に間違いはない。
だが、前提として、4月28日、菅の国民年金未加入問題が発覚したとき、
「行政上の何らかのミスだ」
と釈明したのは見苦しい弁明、という認識があった。しかし、この認識は誤りだった。
判明の翌日、調査不十分のまま、菅らは予定の欧米歴訪に旅立ち、反発をいっそう強めることになった。敵前逃亡のように映ったからだ。対応のまずさであり、旅程が組まれていたのは不運でもある。
その後調査してみると、菅のケースは<法律上の矛盾と行政指導の不徹底>が原因の特殊例であることがはっきりした。勘違いやルーズな処理によるほかの議員の未加入・未納問題とは異なる。
菅の場合、議員に当選する前から国民年金に加入し、厚相に就任した96年1月の時点で資格喪失(脱退)、厚相を辞めた同年11月に資格を再取得した。在任中の10カ月間が無年金(未加入)になっている。
なぜそんなことになったのか。大臣になると国家公務員共済組合の組合員になるが、同組合法には<大臣に共済年金は適用しない>という規定(72条2項2号)がある。
では、国民年金に残れるかというと、国民年金法には<共済の組合員は年金に加入できない>と解釈できる条文がある。両法の矛盾点だ。
ところが、矛盾を残したまま、国民年金の窓口である自治体は、共済組合員になると資格喪失扱いにしてきた。菅の選挙区の武蔵野市役所でも、一般人と同様、菅にその手続きをとった、というのが事実関係である。
これは、社会保険庁が大臣の特例的扱いを自治体に徹底させる行政指導を怠ったために生じたことで、資格喪失措置は間違いだった。つまり、菅が言う、
<行政上のミス>
が発生していた。現に武蔵野社会保険事務所はそれを認め、5月14日付で<資格喪失の取り消し>をし、菅の無年金状態は解消されている。
ただ、自身の無年金のおかしさに気付き、対応しなかったのは、政治家としてうかつだった。過ぎ去ったこととはいえ、一つの検証である。
ともあれ、誤った思い込みで辞任をすすめた当コラムの無礼は、お詫びしなければならない。
2004年7月18日日曜日
菅直人への謝罪/岩見隆夫
岩見隆夫「菅さんにお詫びします」(毎日新聞,近聞遠見)
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