投票の権利を放棄して政治不信は解決しない。意思表示をしない人にはめぐりめぐってツケがはね返ってくる。
投票率は参院選の隠れた争点だ。投票率が高くなると、政治状況は変わることが多い。
衆参ともに投票率は低下傾向にある。時々の政策課題で多少のアップダウンはあるものの、低下に歯止めがかかっていない。
ここ5回の参院選の投票率(小数点以下切り捨て)は65%、50%、44%、58%、56%。98年に58%へ跳ね上がったのは、投票時間を午後8時まで延長した影響である。いわば「追い風参考記録」で、次の選挙からまた下がりだした。なぜ投票率は下がるのか。
結論から言うと、若者が投票所へ足を向けないからである。総務省がまとめた01年参院選での投票行動を見ると、20代前半の投票率は31%、20代後半は36%に過ぎない。一方、50代では65%を超える。60代になると、75%前後にまでアップする。20代で棄権した人が30代になって突然投票することは極めて少ないので、今後も投票率は低下する傾向が続く。
年金がどうなろうと、多国籍軍へ自衛隊が参加しようと、投票よりレジャーだ、という人たちはいつの世でもいた。大ざっぱに有権者の3割といわれてきた。
若者が「無関心」になる理由は政治家にもある。司法から定数是正を求められているのに、自ら手をつけられず違憲状態で選挙を行うのは、若者がそっぽを向くことに加担している。
それでも、国民が意思表示しないと何事も変わらない。例えば、年金問題は見方を変えると世代間対立であり、高齢者は今の給付水準を守りたいため投票所へ行く。若い世代は、負担が増え、将来の給付が減るのに棄権していていいのか。高度成長期が終わり、政治の課題は既得権益の再調整となった。黙っている方が不利益をこうむる。
投票率低下を加速したのは、ゼネコン、労働組合、職域団体など選挙マシンと言われてきた組織の地盤沈下もある。さらに、コミュニティーの希薄化とも無縁ではなさそうだ。無党派層が増えているのは、世の中のしがらみがなくなっていることと連関している。その中で、まだ強力な集票力を維持しているのは宗教団体だけだ。
世界の先進国も同じ悩みを抱えている。オーストラリアやベルギーは義務投票制を導入し、棄権者には罰則を科している。オーストラリアの場合、投票へ行かなかった人は最高20ドルの罰金を払わなければならない。その結果、下院選挙の投票率は約95%にもなる。
だが、投票はあくまでも有権者の自発的な意思によらなければならない。強制的に投票所へ向かわせる社会は息苦しい。参院選では政策課題、小泉政権の評価、政治不信のはけ口など「理由はそれぞれ」、あなたの考えを示そうではないか。
2004年6月21日月曜日
投票棄権
■毎日新聞/社説「棄権のツケは回ってくる」
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