伊集院敦「やはり説明が欲しい」(日経新聞/コラム・風向計6月21日)
また、ひょいとハードルを乗り越えてしまった。戦闘が残る国に初めて自衛隊を送ったと思ったら、今度は与党内にさえ異論があった多国籍軍への参加決定だ。有事法制の成立などもあわせると小泉政権発足以来の安保政策の進展は著しい。
これも小泉マジックのひとつと言えばそれまでだが、有権者の理解を求めるために設けた記者会見での説明はお世辞にも十分とは言えなかった。憲法上、疑義があるとされてきた多国籍軍への参加が今回は可能になった理由を聞かれた首相は(1)国連が全会一致で決議した(2)イラク暫定政権の大統領が自衛隊の活動継続を要求した??などを挙げ、国際協調、国連重視の観点からも「参加してはいけないという理由にならない」と強調した。逆説的な言い方で押し切る小泉流だ。
これに先立つ、野党党首との会談では、しどろもどろだったらしい。野党側の説明によると、自衛隊の指揮権確保や活動内容などをめぐって首相は何度も説明に行き詰まり、同席者の助けを借りながら、どうにか会談を打ち切ったという。
もともと、政権の座に就くまでは安保に関する細かな法解釈論争などは縁の無かった首相である。自衛隊を「軍隊」と言い切り、政府の現行憲法解釈では禁じられている集団的自衛権行使の研究も公言するなど、政権発足後も率直な発言を持ち味にしていた。過去の政府見解との整合性を図ろうとすれば無理が生じるのは当然だ。
政府が年内にまとめる新防衛大綱では、現在は付随的な業務にとどまっている自衛隊の国際貢献業務を法律上も本来業務に格上げすることを打ち出す方向。政府・自民党はアフガンニスタンのテロ対策支援やイラク支援など国連平和維持活動(PKO)の枠からはみ出る任務についてその都度、特別措置法で対応してきたのをやめ、国際貢献のための恒久法もつくることも検討している。それなら、率直に説明するのが筋だろう。
「説明不足」と首相を批判する野党の対応も、理解しにくい面がある。条件付きで参加容認の余地を残していた民主党もここにきて「多国籍軍の目的・任務には武力行使が伴う。憲法上の疑義は払しょくされない」と自衛隊の即時撤退を求める方針に転換した。
これまでは自衛隊がいったんイラクから撤退し、現行のイラク復興支援特別措置法に代わる新法を制定すれば派遣を容認する可能性もあるとの立場を示していた。ニューヨークに出向いた菅直人前代表がアナン国連事務総長との会談で「国連支援の多国籍軍なら自衛隊派遣も検討できる」との意向を伝えたのも記憶に新しい。
民主党の方針転換の背景にあるのは選挙戦略。「中途半端な姿勢を示すより、反対論に立った方が選挙で有権者に訴えやすい」といった党内の声に押された格好だ。政権党を目指すなら、ご都合主義との批判を浴びないようにするための説明が必要だ。
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