2004年6月12日土曜日

少子化・年金/森喜朗アプローチ

■昨日、取り上げた合計特殊出生率の低下について。「年金制度の根幹にかかわる出生率のようなデータが、なぜ国会の年金審議中に公表されなかったのか。疑念が募る」(朝日新聞/社説)わけで、こうなると、注目したいのが読売の言動だが…

■読売新聞/社説[出生率1・29]「危機意識を持ち改革に取り組め」
 民主党の藤井幹事長は「いずれ三党合意は消える」と言う。参院選を意識し、対決姿勢を強めるのが狙いとするなら、あまりに無責任過ぎよう。

 年金改革の論議に欠かせない出生率の公表が遅れたことを、野党は批判している。当然だろう。国会での法案審議の段階で公表していれば、現状への危機意識と抜本改革の必要性を、各政党が、もっと共有できたかもしれない。

 民主党は「改正法の根拠が崩れた」として、仕切り直しを求めている。抜本改革を急げということなら分かる。だが、単に改正法を葬り去れ、というのであれば、賛成できない。

 改正法は抜本改革までの“つなぎ”として、不可欠な措置だ。年金財政は、保険料などの収入より、支払う給付額が多い赤字状態だ。来年度は、厚生年金は4兆4千億円、国民年金は3千億円の赤字となる。保険料率の段階的引き上げで、年金財政は毎年約1兆円改善される。
 国民に、ある程度の負担増、給付減を求めつつ、社会保障全体の抜本改革を断行することこそ、政治の仕事である。

 気になるのは与党の改革姿勢だ。「一元化」の検討も、国民年金には手をつけず、会社員と公務員の年金制度の一元化にとどめたいとの声もある。姑息なことをせず、本気で取り組んでほしい。
 「国会での法案審議の段階で公表していれば、現状への危機意識と抜本改革の必要性を、各政党が、もっと共有できたかもしれない」とさすがに批判めいたことも言っているが、民主党への牽制は当然忘れない。だが、「国会での法案審議の段階で(読売が)非難していれば、現状への危機意識と抜本改革の必要性を、国民が、もっと共有できたかもしれない」だろう。


■毎日新聞/社説「出生率低下 やはり年金改革は出直しだ」
 この出生率の発表は昨年より遅れた。年金改革法の成立を待っていたのではないか、と批判されても仕方がない。参院厚生労働委員会でも民主党議員が「国会での年金論議の場に早く出すべきだ」と指摘したのに、なかなか出てこなかった。

 この出生率のデータが国会に示されていたら、年金審議に重要な影響を与えたはずだ。国民の関心が高い年金改革の国会審議の場に最新の資料を出し、これを基に議論を深めるのは当然のことだ。

 年金改革の根幹をなす人口推計の甘い見通しを基に、政府はまだつじつま合わせをするつもりなのか。このままでは年金改革はいつまでたっても進まない。


■他紙が年金法案とからめて論じているが、日本経済新聞/社説は「少子化問題」を中心に論を展開している。
 少子化をもたらす非婚・晩婚の原因は複雑で多岐にわたる。教育費の高騰や保育所など施設整備の遅れから、若年男性の収入上昇が見込み薄なことから女性が現在より生活レベルの下がる結婚をためらう、長時間労働などのため男性の家事・育児協力が不十分などの指摘もある。

 今回、特に出生率が低かったのは20代後半の層だが、これは女性の非正社員化の進行とも関係がありそうだ。現在、新規学卒者の2割以上がパートとして就職している(雇用動向調査)が、身分は不安定で出産へのハードルは高い。産業界の安易なパート依存など、目先を重視しすぎる雇用のあり方も再考を要するかもしれない。

 先進諸国では様々な制度改革もあずかり出生率低下に歯止めがかかりつつある。97年に出生率が1.18とEU(当時)最低を記録したイタリアでも、子どもが8歳になるまで両親で合計10カ月まで休業できる制度や父親への時短制度などが奏功し、2001年には1.24に上昇した。日本でも参考にしてほしい。

 保育所のさらなる整備と並行して少子化対策費の大胆な重点配分も検討が必要だ。厳しい財政下だけに実効性を精査しながら議論をすすめたい。あからさまな「産めよ増やせよ」策は疑問だが、子を持つことのリスクを減らし満足感を高めることに異論はないだろう。

■「あからさまな『産めよ増やせよ』策は疑問」ってとこに好感が持てた。「少子化対策」はどうやって女性に子供を産ませるかにの力点がおかれがちである。これはあまりにも女性をバカにした議論であって、私はこの「産めよ増やせよ」策を「森喜朗アプローチ」と呼ぶことにしている(本来の福祉とは子供を産んだ女性への褒美であって、子供を産まない女性は言語道断、だそうな)。

■重要なのは、(もっぱら女性に押し付けている)育児による負担を社会全体でシェアしていく制度設計(夫の育児進出・雇用環境の改善・育児支援)だ。

■加えて、それ以上に求められているのは、高齢社会を前提とした社会モデルの青写真である。つまり、高齢社会において、いかに「豊かな社会」を達成するのかだ。

■ちなみに、産経はこの問題は取り扱わず、「イラク新決議 仏独露もこんどは協力を」「多国籍軍参加表明 意義あった日米首脳会談」ってな感じの、いかにも「産経」なトホホな論説。「愛国」の産経が「国家の衰退」にいかに立ち向かうのかを聞きたかったんですが。「女性は家庭(専業主婦)にもどれ!」と言うんじゃないかとひそかに期待したのだが。もちろん「行き過ぎたジェンダーフリー」って決り文句を引っさげて(笑)。


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