2004年4月22日木曜日

イラク人質事件、その周辺―産経新聞/千葉眞

■3邦人人質ビデオ未放映映像を解析 内藤正典・一橋大大学院教授―日本語話す人物存在 「言って、言って」発言促す(産経新聞)
 イラク邦人人質事件で犯行グループがカタールの衛星テレビ局アルジャジーラに送り付けたビデオの未放映映像の中で、人質の一人がナイフを突き付けられ、「ノー・コイズミ」と叫ぶ前に、何者かが「言って、言って」と、日本語で発言を促すような音が録音されていたことが一橋大学大学院の内藤正典教授の研究室の解析で二十日、明らかになった。イラクからの自衛隊撤退を要求するビデオの“演出”に、少なくとも日本語を話せる人物が加わっていた可能性が出てきた。
 アルジャジーラは八日、人質の邦人三人のビデオ映像を放送したが、その際、犯行グループが人質に銃やナイフを突き付けて脅迫する場面は放送しなかった。
 未放映の脅迫場面を含むビデオ映像は、(1)三人が目隠しをしている場面(2)目隠しを外した場面(3)パスポートの映像の三場面から成っている。内藤研究室でこれらを分析したところ、(2)の目隠しを外した場面で、何者かが「言って、言って」と日本語で人質に発言を促すような音が録音されていたことが判明した。
 目隠しをとった場面では、(1)高遠菜穂子さん(三四)と郡山総一郎さん(三二)が口元に手をやり「何か話すのか?」と手ぶりを交えて尋ねるようなしぐさをする無音の映像(2)高遠さんの叫び声と郡山さんが「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫ぶ有音の映像(3)今井紀明さん(一八)が首にナイフを突き付けられ「ノー・コイズミ」と叫ぶ有音の映像が、切れ目なく録画されている。
 分析によると、「言って、言って」という指示らしき音は、今井さんがナイフを突き付けられても何も言わなかった後、突然、始まっていた。周囲の犯人の声とは違ううえ、カメラ側から聞こえており、内藤教授は「『イッテ』という音はアラビア語だと意味をなさない。カメラを持った人間か、カメラの側にいた人物が発言している可能性が高い」と分析している。
 さらに、ビデオの分析では、(1)敬虔(けいけん)なイスラム教徒が行うとは考えられない、女性を脅す場面がある(2)人質を押し倒す際に、犯人が手を添えて支える場面がある(3)脅迫場面の前に、合図があったかのように人質の一人
がカメラを見つめている−などの不審点があった。
 また、政府筋によると、犯行グループは旧イラク軍が使用しない高価なイタリア製の自動小銃を所持しており、アディダス製の靴をはき、映像はソニー製の比較的新しいビデオカメラで撮影、編集作業はアップルコンピュータ製のノートパソコンで行われた可能性があるなどの疑問点があった。
 一方、犯行グループの二つの声明文の分析でも、声明文が西暦を使い、非イスラム的な内容であることから、日本の事情を良く知った人物の関与が浮上しており、今回の日本語による指示と符合する。
 別の政府筋によると、人質となった三人は、脅迫映像に“演出”があったことを事情聴取において大筋で認めているが、アンマンからバグダッドに陸路で向かったという三人の出国記録が残っていないとされるなどの疑問点が残っている。

「自作自演説」はさすがに出せないわけね。
■共産・社民 イラク人質犯「自衛隊撤退」要求に相乗り!?―党勢回復が狙い “失速の恐れ”も
 共産、社民両党がイラク邦人人質事件を機に“反転攻勢”を狙っている。犯行グループが当初、人質解放の条件として両党の主張する「自衛隊撤退」を要求していたことに乗じた形。七月の参院選に向けて自衛隊撤退運動を展開する構えだ。だが、野党第一党の民主党を含めて大勢は「テロに屈しない」という政府方針を支持しており、こうした現実を直視しようとしない両党が人質解放で勢いを失い、土俵際に追い込まれる可能性もある。
 人質事件への共産、社民両党の対応は素早かった。市民団体代表の今井紀明さんら三人の事件が表面化した八日夜、民主党が状況把握に動いていた段階で、共産党の志位和夫委員長は「自衛隊派兵によってこうした事態が引き起こる危険はかねてから危惧(きぐ)されていた。改めて自衛隊撤退を求める」との声明をいち早く発表した。社民党も追随するかのように福島瑞穂党首が「イラクに自衛隊を派遣したことへの反感が事件の背景にある」と自衛隊即時撤退論をぶち上げ、人質事件をめぐる両党の“共闘”の舞台が整った。
 翌九日から共産党は不破哲三議長を含む幹部が全国各地で街頭演説に立ち、自衛隊撤退への賛同を求める署名活動を全国規模で展開した。社民党も福島氏ら国会議員が市民団体主催の緊急集会などに参加して同様の主張を繰り返したほか、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラに「社民党は自衛隊のイラク派兵に同意していない」として犯行グループに人質解放を呼びかけるメッセージを送る“パフォーマンス”も演じた。
 自衛隊派遣に「反対ありき」の立場を貫いてきた両党にとって、人質事件は自らの主張の“正当性”を国民にアピールする材料となり、昨年の衆院選惨敗で希薄になった党の存在感を示す好機にもなった。
 衆院選で野党では“独り勝ち”した格好の民主党が、イラク情勢の悪化に伴う自衛隊撤退を求めながらも、「テロに屈する形で自衛隊は撤退させない」と政府方針を支持したことも、両党の動きを“後押し”した。背景には「対応がわかりにくい民主党との違いを鮮明にすれば、衆院選で民主党に流れた『反自民票』を参院選で取り戻せる」(共産党関係者)との計算が働いている。
 二件五人の人質事件はひとまず決着したが、今後も日本人を標的にしたテロが起きる可能性も指摘されていることから、両党は自衛隊の即時撤退を求める国民運動を継続し、参院選の選挙運動と連動させていく構えだ。スペインの新政権がイラク駐留部隊の撤退を表明するなど国際社会でイラクへの対応を見直す動きも出始めているため、両党としてはこうした例を指摘して自衛隊撤退論を盛り上げたい考えだ。
 しかし、人質解放を受けて、自衛隊撤退論は急速に沈静化している。与党側は「再び事件が起こらなければ、共社両党が自衛隊撤退要求を党勢拡大に結び付けるのは難しい情勢」(自民党筋)と分析。民主党にも「イラク問題で共社両党の立場を支持するのは従来の特定支持層だけ。『自衛隊撤退要求パフォーマンス』は、その特定支持層をつなぎとめておくための苦肉の策ではないか」(幹部)との冷ややかな見方が広がっている。
「テロリストに相乗り」というレッテルはいかにも産経式。人質無事開放で一番困ったのは両党であることは間違いないが。
■千葉眞「国民の生命の保護は政府の重大な責務」(赤旗)
 自己責任を一方的に強調する最近の議論は、今回の人質事件を通じて国民による政府批判や平和的世論が高まることを恐れる勢力によって仕組まれた議論という一面があります。
 人質となった人々の「自己責任」の問題については、リベラル・デモクラシーの社会における個人の自由な活動に対する各人の責任として、これは認めなければなりません。実際、イラクで人質となった人々は、危険、ある意味では「死」をも覚悟でイラクへ行ったという面があるでしょう。
 しかし、同時に考えるべきは、個人の「生命に対する権利」です。「一人の生命は地球より重い」、そういう考え方で日本国憲法も、一三条で「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を保障しています。また、憲法前文は日本国民および全世界の人々の「平和的生存権」を保障しています。こうした規定に基づき政府は、国民の生命が危険にさらされた場合、その生命を保護する重大な責務を負います。
政府の義務はなくならない
 したがってこの問題は、「自己責任」と「生命権」との緊張関係の中で考える必要があります。
 今回の人質事件のような具体的状況では政府は人質の救出に全力を尽くすべきです。「自己責任」は否定できませんが、それが政府による国民の「生命尊重」の義務をなくすものではないはずです。「生命尊重」に触れずに、一方的に「自己責任」だけを取り出すのはおかしな議論です。
 今回の人質事件の背景には何があるのか。日本政府による自衛隊のイラク派兵があります。これは違憲の疑いの極めて強いもので、与党内や保守的な人々からも違憲だという声が出ています。
 他方、イラクでのいくつかのNGO(非政府組織)の人道支援活動は自衛隊が行く前から続けられてきたものです。それが、日本政府による自衛隊派兵で、イラクの人々が占領軍に加担するものとして日本人を敵視するようになり、日本人が選択的に狙われるという状況が生まれたわけです。
 こうした状況も考慮に入れるならば、人質に取られた人々の生命と安全を保障する責務は、より重く政府にのしかかっていたといえます。
 しかし、政府は「自衛隊の撤退はしない」ということだけは言いつづけましたが、人命救出のための活動では、果たしてどれだけのことをやったといえるのでしょうか。
政府の責任を転嫁する議論
 今回の人質事件の解決には、日本国内外での人道支援のNGOや平和運動団体や一般の人たちの支援活動が大きな役割を果たしました。十万単位のおびただしい数のメールが日本からイラクへ送られたともいわれています。こうした呼びかけに応える動きがイラク国内でおこりました。
 いま政府筋が人質の「自己責任」を一方的に強調するのは、政府自身による自衛隊派兵によってイラク国民と日本国民との関係を悪化させた責任と、人質事件への政府の対応への国民の疑問を、すりかえ、カムフラージュし、責任転嫁するための議論と言われても致し方ない一面があります。
 人質となった人々はまるで戦前の「非国民」のような扱いを政府筋や巨大メディアによって受けています。「自己責任」を果たすべき部分、不注意な部分について、彼らにも非があるでしょう。しかし、それだからといって、彼らの活動の意義を全否定するような議論はまったくおかしいと思います。彼らのような人たちが、世界平和を積極的に創造し寄与していく将来の日本をつくっていくわけですから。
 今回の事件が示した最大の教訓は、このまま自衛隊がイラクにとどまれば、日本人殺害や自衛隊員への攻撃を誘発しかねないという危険性です。日本国民とイラク国民の「平和的生存権」を尊重するという意味で、政府は一刻も早く戦闘状態のイラクから自衛隊を撤退させるべきです。



0 件のコメント: