2004年10月7日木曜日

クマ出没

■朝日新聞/社説「クマ出没――ヒトの社会を映している」
 猛獣と思われがちだが、クマは人を恐れ、気配を感じると避ける。本来は臆病で慎重な動物である。それがなぜ、頻繁に出没するようになったのか。
 この秋、クマの好むドングリが北陸などでは不作だ。餌を求めて山から下りてきたようだが、昨今の行動は餌不足だけでは説明がつかない。
 野生動物の生態に詳しい岩手大教授の青井俊樹さんは、里山の荒廃に加えて、人々が果実やゴミを野放図に捨てるのが問題だ、と言う。
 広葉樹のブナやナラといった雑木林からなる里山は、長い間、薪や炭焼きの木々を供給する貴重な自然として大事にされてきた。それは同時に、クマなどの動物が生息する奥山と集落とを分かつ「緩衝帯」の役割も果たしてきた。
 だが、農村は過疎化や高齢化が進み、里山の手入れが行き届かなくなった。伐採されない木々は実をつけ、クマにとっては餌場にも、隠れ家にもなった。
 奥山はスギやヒノキの人工林が増えて、暮らしにくくなった。追い立てられるように里山に下りてきて、普段から人の姿を見て育つ。人に慣れ、恐れなくなったそんなクマを、研究者らは「新世代熊」と呼んでいる。
 田んぼや畑としばしば一体となる里山地帯は日本の国土の4割を占める。それを荒れるにまかせず、住民の安全を守りながら、野生動物と共存する道を探れないだろうか。
 枝打ちや間伐は森林ボランティアら都会の人の手を借りる。野生動物の専門家を育て、地域ごとに配置する。里山の機能を回復させる。みんなでそんな手立てを考えたい。
 捨てられたり、収穫されないまま放置されたりした果物が、クマを引き寄せる場合も多い。兼業農家が増えたこともあって、傷んで出荷できない果物の処理まで手が回らないのだ。
 東京都奥多摩町は餌になる柿が熟す前にとってしまおうと、柿もぎボランティアを募ってきた。「困っています もいでください!」との呼びかけに、首都圏から定員の数十倍もの応募があった。
 別荘地などの生ゴミに誘われ、軽井沢にもクマが出る。捨てられた果実や生ゴミにありつける人里は居心地がいい。
 クマの異変は、人間社会の変化を映す鏡でもある。
 熊の出没に「なぜ頻繁に出没するようになったか?」と誰もが考える…で、結論はいつも同じ、共生をはかろう。何もこれはクマに限ったことではなく、イノシシでもサルでもいいわけだが。
■なんというか、こういう「異常現象(気象)」がおきる度に、いつも人々は人間が行ってきた反自然的行為を省みるが、すぐに忘れてしまう。で、また新たな「異常」がやってくる…そして、忘れる。そういうことを繰り返して、我々は「ゆでガエル」になっていくのかもしれない。


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