■日本経済新聞/社説「厳罰だけで治安は守れない」
狙いは二つある。一つは、凶悪・重大犯罪が増加していると認識して抑止の手段にすること。二つ目は「量刑の適正化」つまり、被害感情の軽重や、犯行の悪質さに見合う刑罰を科せられるようにすること。同じ罪名にあたる行為でも、時代とともに犯罪の態様・手口、悪質さの程度は違ってくる。世間一般の価値観や、何が正義かの基準も変わる。今の刑法は100年前に作った法律だから、そうした世の中の変化に応じた改正は遅すぎたくらいだ。当たり前っちゃぁ、当たり前の話。
少し考えたいのは、厳罰化による犯罪抑止効果である。政府は「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」をまとめ「国民の治安に対する信頼回復を目指して」おり、今回の法改正も同計画に盛り込んでいた。
しかし、あえて重大な犯罪に手を染める者が、刑罰が重くなったり、人身売買のように処罰規定ができたからといって犯行を手控えるとは考えにくい。法務省自身、今回の法改正は「むしろ、どういう犯罪を重大視するかのメッセージ性に意味がある」としている。メッセージを伝える相手は、国民一般と犯罪被害者だ。犯罪被害者は応報感情を今よりは満たせるようになるし、国民には、当局として対策をとっている証しになる。
「治安に対する信頼回復」を実現するには、警察、検察をはじめ入国管理、税関、麻薬取締など関係官庁の適切な活動がまず要るし、地域社会の防犯対策への協力なども必要だろう。刑罰強化と並行して刑務所での矯正教育も改善しなければならない。刑罰の強化は、治安への信頼回復という仕事の手始めにすぎないと、もう一度確認しておきたい。
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