一般論でいえば“笑顔”はすばらしいし、人を和ませてくれる。しかしそうではない時と場合もある。二十一日の一部新聞に載ったフィリピン・アロヨ大統領のこぼれんばかりの笑顔の写真に、違和感をおぼえた。むしろ強い反感すら抱いた。
▼イラクで武装勢力に拉致されていたフィリピン人運転手が解放され、それを発表するアロヨ大統領の満面の笑みのことをいう。同国政府はテロリストの要求に屈した形で、イラク駐留のフィリピン軍五十一人の全員を撤退させた。それを受けての人質解放だったのである。
▼しかし国際社会にはテロとは断固として戦う約束がある。アロヨさんはそれこそ“苦渋の決断”だったはずだが、それにしてはこの笑顔は何としたものか。恐らく国民の共感やフィリピンのマスコミの支持に思わずにんまりしたのだろう。
▼フィリピン人の海外出稼ぎ労働者は約八百万人、人口の一割に達し、イラクだけでも米英軍の施設などで働く人間は四千人を超えるという。アロヨ大統領の決断はフィリピン人の安全を保障し、しかも収入も途絶えさせないという利己的な道は確保できたかもしれない。
▼しかしイラクにいる他のすべての国の人びとをこれまでよりさらに大きな危険に追い込んだ。テロリストの脅しに屈したことで、新たな犯行を誘発しているからである。事実、味をしめたテロ組織は早速「自衛隊も撤退を」と日本などを脅迫してきた。
▼アロヨ大統領は「海外労働者の保護」を大義名分にしているが、もしそうなら危険なイラクで働く出稼ぎ労働者の総引き揚げを命じなければ筋道が立たない。危ない仕事は他人にさせ、自分はちゃっかり金を稼ぐでは…。アロヨさんの“笑顔”は少々不謹慎という気がする。
「海外労働者の保護」というのは、海外労働者が安全に働けるように軍を撤退させたということだろう。だが、テロリストを勢いづかせる行為であることは否定できない。
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