2004年5月30日日曜日

橋田信介 小川功太郎 襲撃事件

■元共同通信論説副委員長で、ベトナム戦争当時のサイゴン特派員経験もある藤田博司上智大学教授の話(東京新聞・特報より)
 一般にはジャーナリストは危険を承知で取材に行き、本人がリスクを負っているのだから、その行為は第三者が良い、悪いと言うべきことではない。戦争の実相を自分の目で確かめ、伝えたいという使命感があるからだ。名誉欲やお金のためという側面も入り交じってはいるだろう。ただ、特に日本では、大手メディアの記者が危険な現場から立ち去る中、フリーランスの記者が報道で果たしてきた役割はきちんと評価すべきだ。

 フリーランス記者を評価すべきだというのはもっともだ。

 こういうのが大手メディア批判につながるケースもよくある(勝谷誠彦がその典型)。
 っていってもですね、朝日は「私たちもリスクを負っている」とばかりにこんな社説をのっけてますけど。


■朝日新聞 社説
 4月に起きた日本人の人質事件では、人質になった5人が「軽率だ」と政府・与党から批判された。外務省の渡航自粛勧告を無視して、国に多大な迷惑をかけたではないか、と主張するメディアまであらわれた

 今回の事件で、政府は退避や渡航自粛をさらに強く求める方針だ。

 だが、日本の政治の場には、戦争報道のあり方についての視点があまりにも欠けているのではないか。

 イラクはいま、占領から主権回復にどう進むかという重大な岐路に立っている。各国のジャーナリストが危険を覚悟でイラクに入っている。日本の主要な新聞社も、人質事件を機に記者を退避させた読売新聞など一部を除き、バグダッドを拠点に取材を続けている。

 取材には危険がつきものだ。国際ジャーナリスト連盟によると、イラクでは開戦以来、すでに43人の報道関係者が死亡した。ベトナム戦争では日本人14人を含めた死者・不明者は約70人にのぼる。

 米国では大量破壊兵器をめぐる誤った記事など、過去のイラク報道に関するメディアの自己批判が始まっている。日本の新聞やテレビも自己検証が欠かせない。そんななかで、メディアが立ち返るべき原則のひとつは現場主義である。

 危険を冒しながらも、可能な限り現場にこだわる。橋田さんと小川さんがしようとしたのはそれだった。
 「外務省の渡航自粛勧告を無視して、国に多大な迷惑をかけたではないか、と主張するメディア」である「読売新聞」はイラクから撤退しちゃったみたいだけど、「迷惑をかけちゃいけない」と思ったんでしょうかね…なんて「よい子」なのでしょう(笑)。
 「日本の新聞やテレビも自己検証が欠かせない」…って、大量破壊兵器うんぬんも読売新聞への皮肉のように思えるんですが。読売新聞は「現場主義」で大量破壊兵器問題を自己検証せよ…ってね。


■「外務省の渡航自粛勧告を無視して、国に多大な迷惑をかけたではないか、と主張するメディア」はどう語っているのか。奇妙なことに、「今回の事件で責められるべきは、犯人の方であって本人たちではない。二人の仕事は、むしろ評価に値する」(産経新聞・社説)と肯定的だ。では、いったいなぜイラクの人質を非難したのか。

■読売新聞 社説
 今回の襲撃事件は、先の日本人人質事件とは、様相がまったく異なる。人質事件が極めて特異だったのである。
 政府に国民の生命を守る責任があるのは、当然だ。だが、家族が自衛隊のイラクからの撤退を掲げ、政府に政策変更を要求したことが、無用な混乱を招いたのである。
 家族の「自衛隊撤退」要求に呼応するように、わずか二日間で約十五万人の署名が集められた。国会前では、組織的なデモが続いた。極めて政治的な、奇妙な光景が繰り広げられたのである。
 しかし、国の政策変更を公然と求めたことへの批判に、家族が「自衛隊撤退」を口にしなくなるや、こうした動きも、急速に沈静化した。


■産経新聞 社説
 四月の邦人人質事件の際、自己責任が問題とされたが、それは一部の人たちが自己責任には目をつぶり、責任は自衛隊を派遣した政府にある、として即時撤退を求めるなど、事件を政治的に利用しようとした結果であった。


 なんともわかりにくい。要するに、「自衛隊撤退」と政治的に利用されそうになったから、被害者である人質の無謀さをバッシングしたってことでOK?
 だが、拉致家族会バッシングへの反論のように、家族の心情を理解し寛容になれなかったのだろうか。


■ついでに「産経抄」も…
 イラクの人質事件がおきた時、「自己責任」問題がかまびすしく論じられた。小欄は“言い出しっぺ”の一人だから、責任上再度申し上げるが、そのことでは「国の方針に従わぬ人間は死ねということか」という式の反論があった。

 なかにはフランスの新聞やアメリカの政府高官の見解を引き合いに出してきたメディアもある。例によって“外圧”を利用し、トラ?の威を借りるなんとやら、しかも都合のよい部分の引用だから笑止千万とも何ともいいようがなかった。

 「自己責任」論とは、何もイラクに行くなという主張ではない。そこは超危険な地であり、最高度の退避勧告がでている地だから、行く以上は自分で責任を持て。他人には迷惑をかけるな。ましてやジャーナリストなら危険を冒すことに自ら責任を負うべきであるということだった。

 今度の場合の考え方も、その延長線上にある。惨事は痛恨極まりなく心から憂慮するが、二人ともそれなりの決意と覚悟の上の取材行だったはずである。日ごろからそのように語っていたともいわれている。国家や政府の責任など持ち出せば、二人にはさぞ迷惑なことだろう。
 やっぱりイラク邦人人質事件の時とは温度差があるね。


■こうなると、いかに自分の都合のいいように利用するかが問題となる(参照:奥さんの遺志)。かっこうの批判材料を得た…とばかりに、しんぶん赤旗が「戦争批判した おじとおい」「自衛隊派兵見る目 痛烈」と見出しをつけている。
 「一日一億円かけて210万円の水を供給している自衛隊」「今度はサマワで『バカ!』と叫びたい」――。死亡が確認されたフリーのカメラマン、橋田信介さん(61)は夕刊紙「日刊ゲンダイ」(十二日付)にそんなリポートを最後に寄稿していました。
 イラク情勢について、「日刊ゲンダイ」に不定期でリポートを掲載していた橋田さん。今回、自衛隊宿営地の取材がひとつの目的でイラクへ行きました。

 自衛隊派兵を見る目は痛烈でした。
 前出記事には自衛隊の給水活動について、水の価格の「五十倍以上のムダな予算をかけて」「黄金の水」をつくっていると指摘、こう批判しています。
 「自公政権は…安いコストと考えているのだろうが、現地イラク人はもちろん、フランス、ドイツ、ロシア、中国の人々は『アメリカの犬がまたバカをやっている』とせせら笑っている。今回の自衛隊派遣は、国際社会で不名誉でバカな行為と思われているのだよ、第2次隊の皆さん」
 民主党内には、今回の事件で、イラク復興支援特別措置法に基づく「非戦闘地域」ではなくなった、として、自衛隊撤退に言及する向きもある…らしい。みっともないから今はやめとけと言いたい。


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