朝日新聞の十日付社説は「脅迫では撤退できぬ」と主張し、脅迫を受け入れてしまえば同じような人質事件を誘発しかねないと述べている。その通りである。ダッカの日航機ハイジャック事件を持ち出すまでもなく、政治目的、金銭目的の誘拐犯との取引は、海外にいる多くの日本人を別の危険にさらすことになる。
ところが、朝日社説はそう指摘しつつも、後半部分ではイラクの現実が特措法にかなったものかを考えれば、「撤退の決断もためらうべきではない」と論理を飛躍させる。仮にも日本政府が今の時点で特措法を理由に自衛隊を撤退させたら、誘拐犯のみならず世界は日本が脅迫に屈したと考えることに変わりない。結果的に、日本は「ひ弱な国家」として海外の邦人を一層の危険にさらすことになる。
誘拐犯の蛮行はイラクの復興を願う人々への明らかな敵対行為である。日本政府はあらゆる手立てを惜しむべきではない。何よりも、国内が一致して解決の道を探り、テロリストに弱みを見せないことである。
極めて重大なこの時期に朝日がこのような「二重基準」の社説を掲げることは悪影響を与えかねない。
朝日のこれまでの社説からいえば、イラクへの自衛隊派遣に反対した立場から、「派遣していなければ、こんな事件も起きなかった」という思いが強いのであろう。
だが、現時点で、本音である撤退論を打ち出す勇気もない。そこで羊頭をかかげて狗肉を売るという苦しい結果になったのだろう。しかし、これは詭弁と言わざるをえない。
そうだろうか。テロリストの要求とは関係なく、撤退すべきと言いたかっただけではないか。イラクの状況が悪化している。イラク特別措置法が想定する環境ではなくなった。だから撤退するという決断があっても不思議ではなく、そのことは「テロに屈する」ということとは関係がないように思える。
■産経抄
テロリストが「米国人、英国人、日本人は皆殺す」と解放した韓国人牧師に豪語する一方で、人質をとった各国の軍のうち自衛隊だけに撤退を要求している。多くの識者が「不可解」と提起している謎だが、小欄はこう考えた。
武装集団に米英と並んで名指しされたのは一カ月前のスペインの列車爆破テロでも同様だった。これは金だけ出して印象の薄かった湾岸戦争時とは比較できないほど鮮明に世界に顔が見える国になった証左だ。五百五十人の自衛隊駐留の効果はそれほど計り知れない。
日本人がターゲットにされたことで、「世界に顔が見える国になった」と喜ぶ無邪気さはすごい。韓国人は解放されて、日本人は拘束されて、優越感にひたっている。
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