2004年11月8日月曜日

体感治安:安全神話崩壊のパラドックス

■「治安悪化」国民の75%が感じる…法務省調査(読売新聞)
 以前より日本の治安が悪くなったと感じている国民が7割を超え、半数以上が将来も悪化すると考えていることが、法務省の犯罪被害実態調査で分かった。

 こうした意識を反映し、自宅に特別のドア鍵を取り付けるなど5割以上が何らかの防犯対策を講じていることも判明。国民の多くが最近の治安悪化を懸念していることが、改めて裏付けられた。

 調査は今年2月、全国の男女3000人(16歳以上)を対象に行われ、2086人(69・5%)が回答した。同調査の実施は4年ぶりで、治安に対する認識について質問したのは初めて。調査結果は、同省がまとめた2004年版「犯罪白書」に盛り込まれた。

 それによると、治安が過去と比べて「悪くなった」と感じている人は、75・5%に上った。また、将来も「悪くなる」と考えている人は51・3%で、その理由として「社会のモラルが低くなる」が19・3%で最も多かった。
 こういう調査って、時期によってかなりの変動が出そう。

■で、特に根拠もなく、人々は「治安が悪くなった」と思っているものなのだろう。これって、「近頃の若者は…」という愚痴とメカニズムは似てる感じもするけど。


■日経新聞/社説「正しく恐れたい治安の悪化」
 この夏、法社会学者の河合幹雄氏が犯罪統計を、統計数字の背後にある事件処理の仕方までを考慮に入れて、検討し「日本では犯罪は増加していないし、治安の急激な悪化も起きていない」と結論づけた著書を出して議論を呼んでいる。白書も治安悪化と少し調子の異なる調査結果を紹介している。国連と協力した調査で、サンプル数は少ないものの「犯罪被害に遭ったか」との視点で調べたところ、この4年で犯罪被害の増加は認められなかったのだ。

 各種の世論調査の結果を見ると、国民が治安に不安を抱く、いわゆる「体感治安」の悪化は否定できない。不安を和らげるには、まず体感の正体を突き止めなければならない。実際に犯罪が急増しているのか、それとも別の理由、例えば、安全なはずの通勤電車に毒ガスがまかれるといった、従来と異質な犯罪が種々発生したことで不安を感じるのか。

 「地震は正しく恐れよう」という防災標語がある。治安の悪化も正しく恐れたい。前掲の河合氏の本には「犯罪白書は細かい記述が多くマクロな犯罪状況を理解するのは専門家でも難しい」との趣旨の記述がある。法務省は統計数字の裏まで読んで治安の実態を分析し分かりやすく国民に知らせる努力をしてほしい。
 この「体感治安」ってのが曲者ですね。これを増幅させているのは何だろう?

■で、これが河合幹雄の問題作。
安全神話崩壊のパラドックス―治安の法社会学

岩波書店

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■↑の松原隆一郎の書評(朝日新聞)で、内容をちら見…
皮膚感覚としては確かに安全が脅かされていると感じる。なぜだろう? 本書はこの謎を、法社会学の視点から切れ味鋭く解き明かす。

 まず、グラフを駆使しつつ事実が示される。一般刑法犯は近年急増しているが、自転車盗が急増部分で、除外すると微増にすぎない。凶悪犯はというと、殺人は50年代から減り続けてこの10年は横ばい。強盗は急増しているものの、ひったくりや集団でのカツアゲを統計に組み込んだせい。検挙率が急降下しているが、ほぼ窃盗犯検挙率の低下に相当している。警察が、軽微な余罪の追及には人員を回さなくなったかららしい。意外さに、あっけにとられた。

 後半が、謎解きである。ポイントは、刑法の運用。日本では、累犯者はヤクザの世界など「境界」の向こうに隔離されるか、もしくは刑事や保護官といった「現場の鬼」が彼らにサシで対面しつつ謝罪させ、こちらの社会へ復帰する世話をしてきた(個別主義)。そうした裁量によって犯罪を「ケガレ」として一括する境界線が維持され、安全神話が語られた、という仮説である。犯罪そのものも、繁華街や夜間という一般人が近づかぬ領域で起きていた。境界が崩れ、「現場の鬼」が人手不足になって、「住宅街」で「昼間」に犯罪を見聞きするようになったのが、我々の皮膚感覚を過度に刺激するのだ、と。
 ん?これじゃぁ、結局、警察官を増員させようってことになりゃしないか? このへんは読んで確認しないとまずいかもね。


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