記者の目:北京五輪に望むこと 国威発揚だけを目指すな(毎日新聞/香港支局・成沢健一)
しかし、108年ぶりに発祥の地に戻った大会は、開会式でも古代から近代五輪までの歴史を再現し、偏狭なナショナリズムよりも人類の普遍的な価値を強くアピールしようとしていた。ギリシャは人口1100万人で政治的影響力も限られる。あえてパーフェクトさを求めないような国民性もあってか、国威発揚型の五輪とは縁遠いムードがあった。
こうした流れは、4年後の北京五輪にも引き継がれるのだろうか。いささか否定的な見通しを持たざるを得ない。中国は今回、過去最高の32個の金メダルを獲得し、国を挙げて祝賀ムードだ。自国開催の次回は米国を抜いて金メダル獲得数1位を狙う勢いだ。選手への期待も既に国民やメディアでは過熱気味だ。大会期間中、北京五輪組織委員会からは300人以上の視察団がアテネを訪れた。
中国は13億の人口大国であり、貧富の格差拡大など国内に不安定要因を抱える。北京五輪を愛国心やナショナリズムを高める絶好の機会ととらえても不思議ではない。しかし、過剰な期待やナショナリズムの高まりの中でスポーツ大会を開いた場合、どのような弊害が起きるかは、中国で開かれたサッカーのアジア・カップでの「反日ブーイング」問題が如実に物語っている。
古代五輪では都市国家を代表して出場した選手が、力や技を競い合った。地元からの期待も大きかったに違いない。近代五輪でも、自国選手の活躍に感動を覚え、勇気づけられた人は世界中に数限りなくいるはずで、そうした期待感を否定するつもりは全くない。しかし、主役は世界中から参加する選手たちであることを忘れないでほしい。
「反日ブーイング」事件があったからねぇ…ちょっと心配になる。
福原愛選手が活躍した卓球会場では、さまざまな国のゼッケンをつけた中国系選手の姿が目立った。国籍を変えた中国出身者だ。世界ランキングで上位を占める中国では、限られた五輪出場枠をつかむのは難しく、海外に活路を求める選手が相次いでいる。
陸上男子百十メートル障害でアジア人初の金メダルを獲得した劉翔選手は、国民的な英雄としてもてはやされている。しかし競技後、報道陣に、あこがれの存在だったアレン・ジョンソン選手(米国)に勝つことが最大の目標だったと個人的な思いを吐露した。
競泳男子平泳ぎで2冠の北島康介選手の「チョー気持ちいい」発言に共感を持った人が多かったのは、日の丸を背負った重圧をみじんも感じさせない、さわやかさからではなかったか。中国選手にも「五星紅旗」より個人の目的を優先させる傾向が生まれていると感じた。
北京市の王岐山市長は、五輪旗を受け取った閉会式の後、「きょうからは世界の目が北京に集まる」と語った。国際オリンピック委員会(IOC)が提唱する規模の適正化に合わせるように、“節約五輪”を掲げるなど国際的な関心に応じる姿勢は示している。
だが、五輪では施設の整備や選手の強化といった課題よりも、雰囲気をどう作り上げるかがより重要だ。国威発揚を目指すだけでは時代に逆行する。アテネでの好ましい変化をどう引き継ぐかに、中国社会の成熟度が問われることになるだろう。
五輪卓球で、中国からの帰化選手がどれくらいの割合か知りたいのだが。
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